「新規事業の立ち上げを計画しているのだが…。」というご相談が最近増えています。人口減少時代に突入している日本では、新しく収益を産み出す事業の確立を行うこと、本業とのシナジーを発生させながら収益増につながるサービスの付加、余剰人材を雇用していくための事業の開発、ワンストップサービスを提供するための複数事業の連携などを目的に、新規事業を立ち上げないといけないという話になるのだと思います。
相談元は経営企画室や新規事業開発準備チームなどと呼ばれる部署の責任者が多いのですが、どの部署の方もかなりのご苦労をされているように思います。その原因はどんなに有望と思える分野の新規事業であっても、本体の事業の幹部から見たときその事業は、先が見えない何とも怪しげな片手間ビジネスに見えるからだと思います。
その思いは「俺たちの事業部が汗水流して稼いでいるのに、のんびりムードでわけのわからん事業を始めるなんて、会社もいい調子なものだなぁ」というものであったり、「部内の優秀な人材や貴重な時間を新規事業の部隊に取られるなんて、とんでもない。会社も普段厳しいことを言っているのだからそんな無駄なことは止めてほしいものだ」というようなものでしょう。
自分自身、コンサルタントに転職する以前、前職の会社で新規事業の立ち上げ責任者を経験しました。その思い出は今でこそ懐かしいものとなっておりますが、当時を振り返れば苦しさのみが鮮やかに蘇る苦い思い出です。当時、私はまだ20代で若手の営業のエースでした。抜擢され、新規事業の責任者となるわけですが、付けられた部下が自分と親子ほど年齢の違う50代のメンバー1人と入社2年目のメンバーでした。あとのスタッフは自分自身で採用しろというような流れでした。
その新規事業はある新興企業が始めたフランチャイズ事業でした。新興企業でしたので、フランチャイズと言ってもまともなマニュアルや指導体制もなく相当苦労しました。しかし最も苦労したのは社内での認知や本体の事業部隊からの応援がなかったことでした。担当役員もフランチャイズ契約をしたのだから、あとはよろしくというような感じでまともに新規事業の展開に向けたマーケティング調査や事業シミュレーションもなく、私が事業のリスクや初期採算ラインを超えさせるために必要な条件を訴えてもその声は経営トップには届きませんでした。
通常、新規事業をスタートするときには、事業の魅力度=成功した場合のメリットばかりに目が向き、まずスタートさせようという話になるわけですが、本来は入念な検討や準備が必要です。新規参入の可否判断は通常フィージビリティスタディと呼ばれています。
これは
【1】参入する事業分野の現状と魅力度(将来の有望度)がどのようなものか。
【2】競合と想定される企業はどこでどれぐらいの事業を展開しているのか。
【3】私たちが事業を成功されるための条件(ヒト、モノ、カネすべて)は何か。
【4】どういう手順で事業の立ち上げ準備とスタート後の展開を行っていけばよいのか。
【5】事業展開がうまくいかなかった場合、事業の撤退はどう設定しておくのか。
というようなことです。これらの重要ポイントを明確化させるわけです。
特に重要なことは【5】の撤退という決断をどう考えておくかです。通常、新規事業の旗振りを行う役員も立場上から成功しか口にだせず、計画もやや甘めに考えて組まれることが多いからです。
しかし、よく考えてみれば現業の事業でもそうですが、一般的にどのような市場においても既存のプレイヤーは存在し、彼らが楽々と事業展開をしていることは稀であるということです。どんな市場でも競争は存在し、甘い考えの企業は淘汰されていくのです。
本来、新規事業は全精力を投入し、小さくてもよいので立ち上げきらないといけないのです。その部分を不明瞭にして新規事業に浮かれると事業担当メンバーは準備段階から疲弊してしまいます。まずは本気で新規事業の開発に取り組むのか、そしてそれはなぜなのか、さらに成功を勝ち取るまで、どこまでトコトン事業に取り組むのかという部分を明確化させないといけません。そしてキチンとマーケティング調査とテストマーケティングを実施するべきなのです。
執筆: B-search